溶ける寸前の雪だるま/脊髄反射のように書いてるネタ短文っぽい何か

溶けきるまでの日々。ネタのような雑記のような創作のような文章を垂れ流しているブログ。

定番だからってリアクションできない方のせいにするのはよくない

 とにかく便意がそこにあったのだ。

 いいや、便意しかなかったといってもいい。

 

 腹を下していた。

 とにかく腹が痛かった。

 

 一色。

 一色だ。

 

 頭の中はとにかく『トイレにいきたい』。

 この腹の中を渦巻くグラグラ煮え立って煮え立って仕方がないスープ上になってたらちょっとやべぇものをぶちまけてしまいたい、社会的に死なないところで。ということでいっぱいだったのだ。

 いざいかんパライソ。

 楽園とはトイレの別名。タカラはそこにあるのだ! いやむしろ身を削ってでるものをそこに置いていきたい! 俺にとってはそうでないけどそれを宝と呼ぶ人もきっといるかもしれないそれを! いいや……そうなれる状況こそが……宝……!

 あぁ! 今トイレにワープする権利があるのなら財布の半分はもっていかれてもいい……! そういう気持ち。

 

 自宅であるマンションの一室までの道のりはとにかく苦痛であったのだ。

 頭は余裕のないトイレ戦国時代に突入していたのだ。

 

(このままでは城門が破壊されてブラウンの歩兵たちが城内……むしろ城外? に飛び出して行ってしまう! 始まってしまう……戦が! 同時に終わってしまう……俺自身が!)

 

 戦争である。

 ウォーである。

 とはいえ戦だけにうぉぉ! 叫ぶ余裕もない(喋ったらでる)。その時は精々うぉぉ……と叫ぶ元気もなく(おぉ、神よと……)青ざめることくらいしか。

 

 茶色の戦場を築き上げるわけにはいかなかったのだ。

 負けるな俺、俺対ブラウン。折れたいブラウンに、という誘惑を跳ねのけつつ。

 とにかく我慢の時だった。

 無暗に攻めるは愚策、殿、我慢ですぞ。と見たこともない爺やが心で囁いていたのだ。

 

 だから、トイレに行ったときはまるで奇跡の無血開城に成功した面持ちであったのだ。

 

(俺はやった! 成し遂げたんだ! 何の犠牲も、誰の犠牲もなく……! 耐えきった! 勝った! 誰にってそりゃもう全てによ……! 楽園で僕と握手! 手は洗ってない)

 

 一人便座でそうテンション上がったのだ。

 勝鬨を上げろ! うぉぉ! のテンション。でもここはマンション。黙ってテンションだけを上げた。

 『神様!』とトイレ限定の信仰心に目覚めてしまいかねない残留者による脱出戦の苦痛さえもなく。

 勝利。

 勝利した。

 これは勝利と呼んでいい。

 

 ただそこには安堵と快楽のみが存在したのだ。

 

 余裕がなかった。

 余裕がなかったのだ、そこまで。

 必死だった。とにかく必死で、この戦争を終わらせよう! そう努力をしていたのだ。頑張った。超がんばった。俺だけは俺を褒めてもいいんだ。

 

「……」

 

 だからふと、余韻に浸るようにふぅと一息ついて、やっとそこで気付いたのだ。

 一人暮らし、便意、玄関を抜け、扉閉める間もなく、便器に座り、イザ開城。

 

 つまり扉は開いていた。

 そこにいつの間にか立っていたのは所在なさげななんか半透明な人である。

 みたことない、あったことない、推定十代後半~二十代前半、女性。

 の、半透明さんが。

 

 半分透明である。

 透けている。

 すっけすけ。向こう側=見える君もびっくり。でもそこには確かにいる。見えないけど確かに心はあるんですよ! という主張する人くらい強くいるのがわかった。

 あなたとってもスケルトン! と褒めることもできず。かといって驚くにはなんか達成感に満たされてしまっていた。ピンチを乗り切った安堵感ってすごいよな。

 逆に不透明人間だったらもっと焦っていたかもしれない。

 でも透明だったから。

 逆に取り乱せないというか。半透明だと『警察に!』みたいにもならない感じしない? 説明とか超困ると思うし。『なんか半透明な人が!』『おいおい悪戯はよせ』で終わりそうというか。

 

「……」

 

 『所在なさげって言葉はもしかして今できたんじゃないか?』というくらい、なんか所在なさげに立っている半透明さん。

 

 そういえばここ事故物件で安かったんだよな、とか。

 なんか疲れてていまいち相手できないけどラップ音? っぽいのがあったような、とか。

 閉めていたはずの扉が開いていたり、電気が勝手についたり消えたりちょっとしてたな、立て付けとか接触不良とかかよ、それは話が違うだろ不動産や覚悟しとけやてめぇ、とか。

 

 最近そんな事考えていたなぁ、あれ出現フラグっていうか予告編だったのかなぁ。

 みたいな事を思いながら見つめるしかできなかった。

 なんかさ迷っていた視線がこちらを見る。

 見つめ合う二人である。

 

「……」

 

 あ、もしかして気付いた? やっば。

 みたいなはっとした顔をする半透明さん。

 一瞬キリっとした風で、すぐに『でもどうしようこれ』、みたいな顔になる半透明さん。

 

 そらそうよな。

 今更『おばけだぞ! おら怖がれ! おらびびれや! 事故物件に安易に入った己を呪うんだなぁ……! 呪うのこっちの役目ですけど!』みたいなテンションは難しいよな。俺だって逆の立場だったらちょっときついもん。

 

 なんかサプライズに失敗して準備中に帰ってこられた、みたいな。

 わいわいやってるところに一人マジになりすぎて滑った、みたいな。

 

 こっから攻撃っていうか、脅かしに行くっていうか、本領発揮するぞ! ってやると、逆に空気読めない感じまであるよな。負けた感というかさ。わかるわかる。

 なんか青白い顔していらっしゃって首にあとついてて、だらんと口から血とか垂らしちゃったりなんかして、準備万端だったっぽいし。もしかしたらそれが普段通り説もあるけれども、なんかキリっとした後血の跡とか顔色とか一瞬消えたり普通っぽくなったりしたからそう間違ってはないと思う。

 

 ごめんな。便意のせいなんだ。俺は悪くない。

 幽霊に気付く余裕って便意で書き消えるんだって俺も今日初めて知ったんだよ。そんなこと今まで知りようもなかったんだ。

 

 でも学びになったと思う。お互い。

 これからはトイレに普段使いで入っている時はともかく、余裕のないトイレ進行に目覚めそうな人間の前に出るのはやめようって幽霊講演会とかで広めたらいいと思う。

 この悲劇をなくそう!

 そういう活動をしたらこういうことも減ると思うんだ。

 

 せっかくの個性(?)がつぶされてしまっているもんな。

 多分紙が見つからない絶望のほうが瞬間衝撃値も高いと思うし。

 リアルに怖いのは人間だった……!

 とかいう話にすらもっていけないからな。

 

 うん。

 とは頭では考えど、言えないよな、こっちも。

 

 なんか申し訳ない気分だった。

 推定幽霊に驚くことができなくて申し訳なく思うことが人生であるなんていうのは予想外の話で。

 解放感からの達成感からの安堵からの申し訳ない顔である。

 

「……」

 

 表情を読んだのか、それとも俺が特にわかりやすい表情をしていたのか。

 『いや、そういう反応はまた違くて』みたいにちょっと嫌そうな顔で手を振られる。

 

 いやダメでしょ。

 ここでそんな反応されたら臭いみたいじゃないですか。臭いけど。臭くて嫌になりますわぁ! みたいな反応に見えちゃうじゃん。臭いけど。

 俺が自ら望んでそういうプレイ的なものを望んだわけじゃないのにさぁ! 『なんか無理やり見せてます、嫌がってるのに』感がでるでしょ! なんか! 別にMでもないんですけどね俺は!

 拒否感出すのだってこっちの役目でしょ! いや出すもんは出したけどねたしかに!

 

 なんかちょっとイラッとして、ぷんぷんしながらお尻をウォッシュした。そのままだから気持ち悪かったのだ。文明の利器。別に臭かったのだろうかと相手に気を使ったわけではない。ブツ自体が便器に残っている状態でお尻をウォッシュウォッシュしたところで消える臭いなど微々たるものだから。

 『えぇ……』みたいな表情されてもさ、放置するわけにもいかないでしょって話ですわ。綺麗にするでしょ。出したら。君生前? にしなかったのって話でしょ。

 

 いや逆に。逆によ。

 『お尻そのままで驚く』これであなたは満足なんですか? って話じゃないですか。違います? そうでしょ。

 『お尻が茶色のデコレーションされたままで驚く』『お尻が綺麗な状況で驚く』どっちがいいですか? 綺麗な方がそらいいでしょ。リアクションの幅も汚いより広まるでしょ。

 

「というかだったらトイレで脅かそうと思うなって話だろうが!」

 

 突然俺が出した大き目の声になんかびくっと震えられたようだが、そんなことは知らないのだ。俺の堪忍袋の緒が切れてしまったのだ。

 

「幽霊でもセクハラはセクハラでしょ、というかなんで君らトイレとか風呂とかで脅かしがちなの? 変態なの? 幽霊になるとフェチに目覚める法則とかあるの? 水場? 水場にひかれるとかそういうのなの? 夏場のボウフラとかの仲間か? 百歩譲ってもトイレはいいやん。風呂でいいでしょ風呂だけで。なんでトイレ選ぶの? 水属性だからってのはちょっと無理があるでしょ! 脅かすなら、時と場合を考えろよ……! 寝掛けーとかちょっと起きた時ーとかもなんかタイミング悪いしさぁ……! あるでしょ! もっと! 驚きやすい余裕のあるタイミング……! 驚かない方が悪いみたいな空気出すのやめろよ。刺さらない方が悪い! みたいに凶器振り回す人がいたら狂気だと思うでしょ、うまいこと言えていないみたいな顔すんなよ。君それと一緒だぞ今って話だから。それに――」

 

 まるで先ほどのブラウン色したあいつのように堰を切って飛び出した不満。

 前々から思っていたことまで、俺は八つ当たりのように叩きつけた。先ほどのそれのような勢いで口からどばーと飛び出した言葉は止まらなかった。

 トイレでガシ! って足掴んだりするのホラーとかでよく見るけど君らわざわざしゃがんだか匍匐前進かなんかで遊んでたんか? とか色々いった。トイレは途中で止めると逆に苦しいから、シカタナイネ。

 

 気付いたらなんか泣きそうになってた。

 俺、悪い事してないのに。

 むしろトイレ覗かれたかつあわよくばそのままなんかされてただろう被害者なのに。

 

 立ち上がってパンツとズボンを履く。

 なにせ、丸出しだったのだ。防御力がゼロで心もとなかった。

 やっぱりそんな丸出しの状況を狙って出てくるのって頭おかしいと改めて思った。

 

 思いながら、水を流す。

 ブツとお別れの瞬間だった。

 きれいさっぱり消えてく。

 ふと、ブツが流れていくその瞬間目をそらしたうちに半透明さんは消えていた。

 

 水に流されたということでいいのだろうか。

 お互い水に流そうぜってことだったのだろうか。

 

 そんなすっきりしたけどすっきりしない気持ちで俺はトイレを出た。

 

 半透明さんと俺が出会う事は二度となかった。

 

 でもなんかマンションで『決まってごはん中に幽霊でる』という噂が広まってた。

 

 そうじゃない。

 出した後がダメなら出す前の状態でって話じゃないから。

 

 

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  書きたい奴がかけないからリハビリがわりに勢いだけで書いた。

 トイレ我慢してたのが原因かもしれない。

 反省はしていない。

 

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